With…





「あかねちゃん? どうしたの? こんなところで」
渡殿のあたりでうろうろと挙動不審な行動をとっていたあかねに、詩紋が軽く声をかけた。
声をかけられたあかねはびくっと体を震わせると、恐る恐るといった表情でこちらを振り向く。
その様子はまるでいたずらをしているところを母親に発見された子供のようである。
「あっ、詩紋くん…」
どこを見たらいいのかわから無いのか、視線が宙を泳ぐ。しかし、覚悟を決めたのか、息を大きく吸い込むとおずおずと話し出した。
「え、えーっとね、ここの時代って食事が一日二回だから…その、あの…お腹がすいた…なーって」
この時代の食事は一日二度、朝夕にのみ食事をする。毎食は豪華で量もそれなりにあるのだが、それでも一日二回というのは規則正しい生活をしている上では辛い。その上、低血圧であるあかねにとっては朝の食事はほとんど口にすることがない、というのも大きな原因の一つであったが。
「つまりは食いモンを物色中…ってことだな」
「て、天真くんっ」
新たな人物の登場に、あかねの動揺はさらに増す。またこんな恥ずかしいところを誰かに見られてしまったのだ。
「うう…その通りなんだけど…」
言葉は悪いが全く持ってそのとおりの表現に、あかねは返す言葉もなくがっくりとうなだれる。
「それだったら、女房とかに頼めばいいじゃねぇか」
「う、うん…実はさっき頼んじゃって…それももう食べ終わって…あの」
だんだんと聞き取れないほど小さい声になっていく。
「で、でもっ! 食欲旺盛でいいよねっ! うん、あかねちゃんらしい!」
「詩紋くん〜…。優しい!」
「…それ、フォローになってるのか…?」
ぼそりと言った天真の呟きはあかねの耳には入っていないらしい。否、わざと排除しているのだろう。
「一緒になんか食べてぇけど、頼久から呼ばれてるんだ。…ちょっと顔出してくるからさ、なんか見つかったら教えてくれよな」
軽く手を上げると、天真はその場を後にする。
「天真くんもお腹すいてるんじゃない…なんだ、もう…」
「実は僕もなんだ」
こっそり耳打ちするようにもらした詩紋の告白に、あかねが笑みをこぼした。同士の発見に表情が明るくなる。
「そっか、やっぱり食文化とか慣習も違うものね! …よかった、私だけじゃなかったんだ」
「あ…そうだ、一緒になんか作ろうよ! この間、僕、レシピを聞いたんだ…えーっと、確か椿餅(つばいもちい)って言ったかな?」
「つ、つばいもちい…?」
聞きなれない言葉にあかねが問い返す。
「うん、餅の粉を甘葛で固めて、椿の葉で包んだものだって。蹴鞠の折に食するのが例らしいけど…あ、だったらみんなを誘って蹴鞠をした後に食べるのもいいよね」
「詩紋くんが作る料理っていつも美味しいよね! きっとすっごく美味しい料理ができそう!」
これから作る料理を想像したのか、あかねが満面の笑みを浮かべた。つられて詩紋も微笑み返す。
「それはきっとあかねちゃんのために作るからだよ」
「え?」
「ううん、じゃ、一緒に作りにいこう! 簡単だから、あかねちゃんもすぐ作り方を覚えると思うよ。できたら天真先輩にも届けないとね」
すっと差し出した詩紋の手を取ると、あかねは詩紋とともに歩き出した。











以前出した同人誌より再録。再録…しようと思っていんですが、あまりに酷い出来で(汗)、かなり付け加え&書き足しをしています。書き直してもあんまり変わってな(略)。ゲフンゲフッ。この話自体はネタがふってきたこともあってかなり短時間で書き上げたように思います。



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