おまけ


外はすっかり日が沈み、室内の仄かな明かりだけが辺りを照らしている。
サフィルスとジェイドは理事長であるセレスに呼ばれ、校内の中央部に位置する理事長室へと赴いていた。
「やあ、よく来たね」
セレスは中庭を一望できる窓際で、二人に向かってそう楽しそうに囁きかけた。
「ご用件はなんです?」
そうジェイドが切り出すと、セレスは数歩前に歩み出て、二人の顔を窺った。
「そう急かさなくてもいいと思うけどね。…ベリルから聞いたのだろう、あのことを」
今日の職員会議で教師全員に通達されたのだ。
…この学園を来年度から女子校にするという案を。
「女子校案、ですか」
「そう。この腐りきった学校を零から作り直すんだ。これはその第一歩だよ」
「しかし…まだこの学校には生徒がいるんですよ! その生徒たちが卒業してからでも遅くはないと思います!」
何故今なのか。
セレスの意図を測れず、サフィルスが声を荒げる。
現在の生徒たちを退学処分にして、新しい女子生徒を受け入れると言うのだ。
「遅くない…? 君はわかっていないようだね。改革は早いほうがいい。手遅れになってからでは遅いんだよ。現に年々志願者数は減り、今では他校から退学になったものたちの受け皿となっているんだよ、この学校は。校風も次第に荒れている。規則が規則として守られていないんだよ」
「…その改革の手始めが女子校、と言うわけですか」
「そう。大体男ばかり、と言うのは美しくないからね。先ずは君たち教員の支持が必要だ」
くるり、とセレスは二人へ向き直った。
――たおやかな笑みを浮かべたまま。
「君たちはこの意見に賛同してくれるよね?」
有無を言わさない強い光が瞳に宿る。
意見を聞きながら、すでに答えはセレスの中では決まっているようだった。
「サフィルス、君は勤め先の生徒と交際。もう少しで懲戒免職処分だったところをこの学校へと呼び寄せてあげたんだったよね?」
「…はい」
サフィルスは赴任先の学校で生徒と恋仲に落ちた。
そこから先の転落はあっという間だった。
「そしてジェイド…君の場合は派閥争いに負けたんだったよね。それで僕が受け入れてあげた。引き取り手の無い君たちを僕が拾ってあげたんだよ。その恩は忘れてないだろう?」
その表情はとても冷ややかだ。静かに淡々と念を押すように確認する。
「安定した職に就いているほうが、君たち自身のためになるとは思わないかい? このご時世だ。再就職先を見つけるのは大変だよね。塾の講師と言えども、問題のあった人間を雇い入れるほど不自由はしていないよ。校医とて同じことだ」
「そうですね、確かにこの不況の中で再就職先を見つけるのは困難です…」
「そう、難しいね。なら自ずと答えは見えてくるよね?」
「…俺はこんなところにいつまでも留まっているつもりは無いさ。こんな場所で終わるわけにはいかない。あいつらを見返すためにもな…! そのためになら俺は、やる」
ジェイドの決意を聞いて満足そうにセレスは頷く。
「そうだよね。酷いよねぇ。君は悪いこと何にもしていないのに。ただ、その罪を咎めただけなんだよね。教育委員会や校長の…言わば学校教育の要となる人々の…。それがバレて、濡れ衣を着せられ、戒告処分を受けた」
セレスはそう言って微笑みかける。
本心を語らない偽りの仮面をかぶっているかのような笑顔だ。
本心を窺い知ることは出来ない。
「その君たちを僕は救って機会を与えてあげた。そして、この計画が上手くいけば、公務員としての安定した生活が戻ってくるかもしれない。君たちも帰りたいだろう? 教員免許を取得して、公務員試験に合格し、難関の教員採用試験に受かって…その末路がここなんて、寂しい結果だよね。…僕に付いてきてくれるなら、上と話し合って君たちがあるべき場所へと戻してもいい」
セレスは二人に天使の微笑を向けた。
「…私は…」
セレスの眼差しの重圧に耐え切れなくなったのか、サフィルスが顔をそむける。
心の迷いは捨てられない。が、確実にあのころの生活が蘇る。
教師として生き生きとしていたあの時を。
まだ戻れるのかもしれない。
あのときに。
今なら。
「…女子校案を受け入れて支持してくれるよね?」
再び同じ問いを二人に問い掛ける。
今度の問いかけに対する二人の答えは決まっていた。


おまけです(笑)
真面目に語っていますが、女子校にするため、と言う目的のためです。内容を書くと馬鹿馬鹿しいです(笑)。まさに好き勝手の極み。
女子校ってある意味男子校より凄いと思います、セレス理事長(笑)
でもこの3人の会話って大変です。頭のいい会話をするんでしょうし(遠い目)
ええ、私には無理でした(きっぱり)


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