「あのね、ロードのお願い、聞いてくれる?」
「…なんですか、ロードさん」
テントの中に入るなり、ロードは猫なで声で、そうサフィルスに話し掛けた。
それに思わず、サフィルスは怪訝そうな声で答える。
たいていこういう声でロードが頼むときは、裏によくない考えがあるのだ。
何より、アレクでなく自分に頼み事があるのが怪しい。
アレクが隣で何事かとロードに顔を向ける。
「ちょーっとしたゲームやろうぜ。勝ったやつが負けたやつの言うことを聞くっていう商品つき」
「…それは私にメリットがあるんですか?」
はぁっと軽く息を吐き出して言葉を紡ぐ。
「あるぜ〜。よーく考えてみろよ」
ロードが近づき、こそっとサフィルスに耳打ちする。
「俺がアレクに手出しできないようにするとか…」
「やります」
それに対し、サフィルスは即答で答える。
「へぇ、なんだかわかんないけど面白そうだな!」
事の成り行きがよくわかっていないアレクだったが、ロードがサフィルスとゲームをするということだけは認識できたようだった。
「おう、アレクがレフリーやってくれよ」
「レフリーって…いったい何のゲームやるんだ?」
「腕相撲さ」
アレクの問いかけにロードはにっこり微笑んで答えた。


アレクの腰ほどの机をテントの中央に用意すると、互いに向き合う形で手を握る。
「勝負は一回きりだぜ。待ったなしな」
「望むところです」
ロードの言葉にはっきりした口調で答える。
二人の組んだ手の上に自分の手を載せると、不正がないか確かめた後でアレクが声をかける。
「よし、じゃ、行くよ〜…。レディーゴゥ!」
アレクの掛け声とともに、双方が力を入れる。
その緊迫した試合の真っ只中、だった。
「ああん、いったぁーい☆」
「え?」
突然のロードの悲鳴に、サフィルスの力が一瞬弱まる。
「スキあり!」
その一瞬をロードは見逃さず、右腕に渾身の力をこめる。
突然の力の圧力に耐えられず、そのままサフィルスの手の甲は机に押し付けられる。
「よっしゃあ!」
「き、汚いですよ!」
「うわーっ! お前、卑怯ー!」
拳を掲げて勝利に喜ぶロードにアレクとサフィルスは抗議する。
「うるせぇっ!」
向けられた抗議の一言にロードが一喝する。
「勝負に汚いもくそもあるか! 勝ったらいいんだよ、それで。それに油断大敵って言葉知ってるかぁ? 大体女の細腕で真っ向な勝負なんてできるか! この位のハンデは当然必要だぜ、ったく」
この奈落の世界で生まれ育ったロードにとっては、勝つことが全てなのだ。
勝てばそれでよし。問題ない。
手段なんて選んでられない。
「じゃ、言うこと聞いてもらうぜ。まずは…」
早速、と言わんばかりに、ロードが声を発した。
「まず…まずって何ですか!? ひとつだけでしょう?!」
慌ててロードの言葉にサフィルスが反論した。
そんなことは一言だって聞いていない。
「あん? いつ俺がひとつだけって言ったんだぁ?」
ロードの言葉を思い出してみる。
たしかに負けたやつが勝ったやつ言うことを聞く。そうとしか言っていない。
だからといって、そうそう幾つも聞けるわけがない。
それにロードの頼み事なんてろくなものがないに違いない。
「ひ、人として恥ずかしくないんですか!」
「別にぃ〜。それより約束破るほうが人間としてやっちゃいけないことだよなぁ、参謀さんよ?」
「それは…まあ、そうですけどっ! 時と場合です!」
「いや〜ん、女の子にがなるの〜? 嫌われちゃうわよ? そういうの」
「貴方の場合、中身は立派な男でしょう」
「ちっ。しょーがねぇな。じゃ、当初の目的果たせるだけでいいや。期限なしで、いつでも俺の自由なときにアレクを連れ出すことを許可してもらうぜ」
「今だってそうしてるじゃないですか!」
「お前の説教がその後に無条件につくだろ。うざいんだよ、それが。こうすれば、お前に前もって言わなくても、俺とアレクがいいと思ったら自由に出かけられる。ま、行き先ぐらいは教えてやるかな〜。ま、お早い話、お前公認の仲になろーかと思ってさ。とりあえず、明日出かけることにするぜ」
「こ、公認の仲だなんて、絶対に駄目です、認めません! 大体貴方と一緒では心配です。それに明日は私が王子と一緒に行動しようと思っていたんですよ」
「拒否権はないぜ〜、勝負に負けたんだからな」
「うーん、あのさぁ…」
ロードとサフィルスの言い合いを聞いていたアレクが口をはさんだ。
「実は…」
アレクが言いかけたところで、テントへベリルがゆったりとした足取りで入ってきた。
「やぁやぁ、皆おそろいだねぇ。アレク、明日の件を参謀殿には話してくれたかい?」
「今言うところ。あのさ、俺ベリルと約束してるんだ。だから明日はベリルと一緒に出かけるから!」
「えっ?」「何ぃ?」
二人が声を合わせて、驚く。まさに寝耳に水である。
「まぁ、そういうわけだからね。ああ、夕飯もどこかで食べてくるから気にしなくていいよ」
「そーいうことだから、明日は遅くなるから、よろしくね、サフィ」
そうアレクは笑顔でサフィルスに語りかけると、やって来たベリルとともにテントを出て行った。
二人だけがその場に取り残される。

「おうじぃ〜…」
力なくサフィルスが項垂れる。
「ンだよ。先約かよ…。っつーかあいつのほうが侮れねぇ…」
「それに関しては同感です」
「よし、一時休戦だ。まずあいつをどーにかする」
「判りました」
こうしてベリルとアレクを引き離す同盟がここにひそかに結成されたことに、当の二人は気づくはずもなかった…。






ロード→アレク←サフィみたいな話です(笑)
ベリルが美味しいところ取りです〜(笑)
やっぱりロードは一番書きやすいです。多分一番話し口調が自分に近いからではないかと(汗)
それにしても、今回はいつもの10倍ぐらい内容がなくて申し訳ないです…(汗)
そろそろちゃんと話を練って作った方がいいですよね(ってそうやってなかったのか…お前)




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