静かな夜だ。

心も体も冷え切った…冷たい夜。


二人は王の印の威力を思う存分味わった後、山の中腹にある質素な小屋に来ていた。
道に迷った旅人などに建てられた山小屋は、必要最低限の食材、家財道具などが揃っている。
天使の来襲等もこの場所は比較的報告が少ない。
一晩明かすには最適な場所といえた。
ここから、封印の祠までは遠からぬ距離にある。
明日の昼過ぎには到着することだろう。扉の開錠まで後少しだ。
山小屋での休憩の最中、まさにそんな時だった。

「…っ! ジェイドっ!!」
突然のジェイドの行為に、サフィルスは声を荒げた。
「な、何するんですか…っ!」
簡易なベッドに押し倒されそうになって、慌ててそれを食い止める。
「何って、ナニをだよ。まさか知らないわけじゃないだろう?」
しれっというジェイドの横で、サフィルスの顔は傍から見てもわかるほど紅潮していく。
「し、し、知ってるとか、知らないとかじゃなくて、何で貴方とそんなことしなきゃいけないんですかっ!」
「暇つぶしだよ。あいつらと会うまでにはまだ時間がある」
暇つぶしに、で片付けられる問題ではない。
「嫌です。そんな気分じゃないですし! だいたい、そんなにしたいなら色街にでも行ってきたらいいでしょう!」
「そんな悠長な状況下だと思うか? 俺たちは指名手配犯も同然だ。こんな状態じゃ、自給自足しかないだろう? 俺だってお前となんて不本意さ」
「なら…どうして」
はた、と思い当たる。
彼もまた自分と同じ境遇なのだ。
ならば。
それならば。
「貴方は…こんな形でしか人の温もりを求められないんですか?」
「……」
「不器用な人ですね…」
「うるさい」
壊れそうな心を人の体温で繋ぎとめようとする。
寂しさの埋め方なのだろうか。
だとしたら。
…酷く不器用だ。
「別にとって喰おうというわけじゃない。同意はこうして得ようとしてるだろう?」
「傲慢且つ強制的に、だと思いますけどね」
一呼吸を置き、まっすぐジェイドを捉える。
「…私はプラチナじゃありませんよ」
はっきりと断固とした口調で告げる。
「……。俺とアレクもな。ま、見た目からして違うが」
「それだけははっきりさせておきたいんです。そうでないと…求めてしまう。自ら手放したのに…勝手ですね」
サフィルスの告白を、ジェイドは感情の篭っていない能面のような表情で聞く。
「…どうも、心の一部は置いてきてしまったみたいです。…覚悟したのに…してたのに、どうしてでしょう。虚無感がどうしても拭えない」
空ろなサフィルスの視線は、目の前にいるジェイドは見ていない。
ジェイドを通して、別の誰かを思い描く。
「何もしないで、外の闇に心を傾けていると…思い出すんです。どうしようもない思いが、私の心を掻き立てる。私の選択はこれでよかったのかと、責めたてる何かがいる。後戻りは出来ないのに、確かにこうして私の手はアレク様を振り払ったのに…。こんなに汚れきっているのに、まだ何かに縋ろうとしている浅ましい自分を再認識する」
膝の上で両手をぎゅっと握り締める。
切なげな掠れ声での独白は、ジェイドの鼓膜に酷く張り付いた。
「誰かに慰めてもらいたいのは私のほうかもしれないですね…。こんなときだから、人肌が恋しい。とても」
感情を抑えた声でサフィルスはジェイドに告げた。
本心から言っているから、心が痛い。
痛くて痛くて。

簡単に縋れるものを求める。

「…いいですよ。もう失って怖いものなどないんですから」
そうジェイドに言うと、ジェイドを抑えていた両手を静かに解いた。

「って…私がこっち側なんですか」
押し倒されかかっている自分に不満を漏らす。
「…俺に女側をやれとでも? それはまた笑えない冗談だな」
「笑えない冗談は貴方の専売特許でしょう! 冗談なんかじゃありません!」
「嫌だね。俺の男のプライドにかけて」
「私だって男です!」
こうして軽口をたたいていると、少しだが気が紛れる。

それは全く虚しい紛らわせ方だけども。


互いの名前も呼ばず、交わす言葉もない。
唇を重ねることもない。
ただ、温もりを求めるだけの行為。

お互いに呟いた別の名前は、夜の静寂に融けた。





書きました! ついに書いてしまいました!!(笑)←テンション高し(笑)
ジェイド×サフィ…。更新履歴にずーっと書いていた話がこれです。
この話が悶々と思いついていましたです(汗)
漢らしくUPしましたが…ジェイプラ至上が聞いて飽きれます。
思いついたからといって書けばいいってもんじゃねーだろっ!!という突っ込みは重々承知しています(汗)
でも筆の進みの早いこと、早いこと…。
はっはは! でももう書いたのですっきりしましたー。
ってかサフィルスばっか目立っててすみません(笑)
サフィルス書きやすいんです(汗)。反対にジェイドは難しいです。
私の理想が高すぎるのがきっと原因なんですけど。
ちなみにラスト部分は裏にUPします。この話自体裏UP予定だったんですが…、まあ、色々とあって、やめてしまいました。なんかところどころに裏の名残が残ってますが(笑)
とりあえず、敬語じゃないジェイドがかけて楽しかったです…はい。

それにしても後味悪くてすみませんです(汗汗)




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