シンデレラ→ロード
継母、義姉→サフィルス、アレク、プラム

ロードの場合、その二。

「ロードさん、ちゃんとおしごとするのですー」
「そうだよ、ロード。ほら、サフィとおしゃべりしてないで仕事仕事! サフィもダメだよ、話し込んじゃ。ロードは忙しいんだから」
何とも迫力がない義姉たちのご登場である。
この気温ゆえ、その服装は完全防備である。それでも寒いのか、頬は紅潮している。
「ロードさんがお仕事なさらないから、アレク様に叱られちゃったじゃないですか」
小声でそう言うと、恨めしそうにじろりとロードを睨みつける。相変わらずの反応に、ロードは知るか、と呟いた。全く、この参謀は相変わらずの反応しかしない。
「…なんかよー、お前らに言われると、台詞だってわかっててもムカツクぜ。そ・れ・にっ! 随分と暖かそうな格好しやがって」
ロードはシンデレラという設定上、お世辞にも綺麗、とは言えない服装だ。防寒という意味でもあまり意味をなさないほど薄着である。いくら体力にはそれなりに自信があるロードでも、目の前でこうもぬくぬくと温かい格好をされれば頭に来る。例え演技であっても。
「え? そんなことないよね、プラム」
「そうです、ロードさんのきのせいなのですー」
顔を見合わせて、にっこりと微笑む二人をロードは胡散臭そうに一瞥した。
アレクとプラムが義姉という設定(実際には男ゆえ義兄になると思うのだが)自体に無理があるのではないだろうか。はっきりいって意地が悪そうな義姉、には程遠い。
「あ、まだここの掃除が終わったら各小部屋の片づけがありますから、気を引き締めてくださいね」
「こんなシーンがまだまだ続くのかよ!?」
サフィルスの言葉に即座にロードは言葉を返した。
この廊下を掃除するのだって、時間をかなり使っているのだ。
「ある意味序盤の見せ場ですから。ここでシンデレラの状況に皆が憐憫の情を抱くわけですし」
「さっさと見せ場やっちまうってのは? プラチナも出番待ってるんじゃね―の」
「プラチナなら『くだらん』って言って寝てるけど…」
「はぁ? じゃ誰が王子やってンだよ!?」
王子、という役柄ゆえ勝手にプラチナだと思い込んでいたロードは素っ頓狂な声をあげる。
「ジルさんですよ〜」
即座に告げられるプラムの一言。
そして一瞬の間。
「…やめる」
「えっ!?」
「ジルさんに頼み込むの大変だったんですよ! ただ立って黙っているだけでいいですから、ってお願いしてやっと了承いただいたんです」
「よりにもよってジルかよ〜。大変なことになるの、目に見えてるじゃねーか!」
普段でさえ寡黙なのだ。これから向かえる各シーンを考えるとそれだけで頭痛の種となる。
「ジェイドも手が空いてましたけどね」
「もっとやってらんねー!」
「…というと思ってやめたんですけど」
間髪いれずに告げられた一言にサフィルスは苦笑を浮かべる。
「とにかく、お宝ももらえねーし、色々面どくせーし。まぁ? こんな美少女だから主役抜擢は仕方ね―と思うけど。…でも、降りるっ」
持っていたモップをそのままアレクに手渡すと、脱兎の如くその場を後にした。
「あ、逃げた!」
「じゃ、アレクアレク〜。ボクがやってみたいのです」
アレクの服の裾を掴んでプラムが見上げる。
「プラムさんがシンデレラを、ですか?」
「はいなのです。シンデレラはきらきらして、あたたかくて、きもちがふわーっとなれるのです! やってみたいのです!」
プラムは目を輝かして懇願した。

戻る 続く
 SSTOP



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