シンデレラ→ベリル
継母、義姉→アレク、+乱入一人。

ベリルの場合。

外気は顔がピリッとするほど冷え込んでいる。凍てついた風が、がたがたと窓を鳴らした。その振動にバケツの水が小さな波紋を起こす。ベリルはその様子を暫く眺めた後、手をその上に翳した。
「水よ、僕の元へ」
紡ぎだされた言葉に呼応するように、バケツの水が竜巻のように湧き上がる。水はそのまま上空まで昇ると、雪が舞い散るように辺りに拡散した。きらきらと辺りに落ちるそれは一瞬にして、蔓延る汚れを吸い取って消えていく。
「ベ、ベリル! なにやってるんだよ!」
「何って見てのとおりだよ、アレク」
予定とは違うベリルの行動に、慌てて柱の影からアレクが姿を現した。
「魔法なんか使っちゃ駄目だろ!」
「でもね、考えてごらん。この広い廊下とそれからこの後にある各個室の掃除と料理。それを僕一人で片付けるのに一体どれだけの時間がかかると思う? …今日一日かけても終わるかどうか。でもこうして魔法を使えばその作業も短縮されるだろう? それに一人で仕事をこなすと、どうしても隅々までの配慮は行き届かないからねえ。集中力も持続しないだろうし。そういう面から考えても魔法を使うことは悪いことだと言えないんじゃないかい?」
「う…うん、まぁ…そうかもしれないけど…」
「魔法を使ったほうが効率がいいってアレクも思うよね?」
アレクが頷きかけたそのときである。
「まだ茶番劇をやっていたのか…」
「プラチナ!」
まだ寝起き間もない、といった様子で不機嫌そうにプラチナがこちらを見ていた。
「…兄上が主役じゃなかったのか?」
いぶかしんだ様子でアレクとベリルを見比べる。
「いろいろ合ったんだよ、今は僕が主役かな?」
ベリルが苦笑しつつ、寝ぼけ眼のプラチナに説明する。
「経過がよくわからないが…ベリル、シンデレラが魔法を使っては意味がないだろう」
先ほどのやり取りだけは聞いていたのか、プラチナが冷静な判断を下した。
「あっ…! そ、そうだよ!」
「うん、そうだね」
全く悪びれなく言うベリルに、一人アレクはため息をついた。
「そうだね、って…。危うく騙されるところだったじゃないか! やっぱりお前、実は詐欺師かペテン師じゃないのかっ? お前シンデレラなんだからちゃんと演じなきゃ駄目だろーっ!」
「…兄上、俺にはそれ以前にこの人選に問題があるように見えるが?」
的確な指摘をプラチナが口にした。
「そうだな…兄上が王子をやればいい。必然的に主役をやりたい奴がいるんじゃないか?」
「うん、そうだねぇ。それがいい、そうしなよ、アレク」
「え…。そうかなぁ?」
「僕から彼に話を伝えておくから。きっと喜んでやってくれると思うよ」
そう青の賢者は赤の王子に笑いを含んだ声で告げた。

戻る 続く SSTOP


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